『教育相談係 どう動き どう楽しむか』(和井田節子/著 ほんの森出版)


 はじめに

 本書は、私自身を含めた学校で教育相談に携わる教師が、校内の仲間の教師や、生徒や、関連するさまざまな機関の専門職の方々、保護者、地域の方々とつながり、子どもをエンパワーしてそうした方々につながっていってほしいと願って書いた本です。
 ほんの森出版からこの本の執筆依頼をいただいたとき、正直なところ、私のような一実践者が本なんか書いちゃっていいのだろうか、という思いがありました。しかし、じっと考えているうちに浮かんできたのは、困難を克服したときの子どもたちの笑顔でした。そして、次にその子どもたちと向き合ってがんばってきたたくさんの仲間の教師たちの感動の笑顔が浮かびます。そう、教育相談は、そういう笑顔に出会えるというごほうびつきの仕事なのです。
 この楽しい仕事の中で、私自身や教育相談仲間たちが、自分自身の相談活動や学びをどんなふうに広げてきたのか、校内でどんなふうに動くなかで教育相談を理解し協力してもらってきたのかなどについてお伝えし、交流のきっかけにしたいと考えました。教育相談は、その発想や技法を知れば知るほど、支援できる範囲が広がるからです。
 この本では、一つには学校教育相談の誤解を解きたい、という思いがあります。教育相談には一般的にカウンセリングのイメージがあるようです。ですから、教育相談をやっているというと、「自分から相談に来る子ってそんなにいるの? 来ない日も相談室でじっと待ってるの?」と心配されたり、「俺もカウンセリングしてもらおうかなあ」と言われたりします。カウンセリングに対するイメージもさまざまなようで、「何でも、うんうんって聞いてるのって忍耐だよね」と同情されたり、「じゃあ俺が今何を考えているかあててみて」とからかわれたりしたこともありした。
 でも実際は、それらのイメージよりもはるかに能動的でダイナミックです。私は相談室でじっと待っていることなんてほとんどありません。担任や学年などと連携しながら、子どもたちにどんどん働きかけていきます。保護者と共に作戦を練っていきます。子どもたちが健やかに成長して欲しい、という共通の願いでみんながつながるとき、そこにはドラマが生まれます。そう、学校教育相談とは、「相談」という言葉のイメージをはるかに越える、大事な教育活動なのです。そのこともぜひお伝えしたいことです。
 学校教育相談とは、「『個』から発想する成長援助」だと私は思っています。生活指導(生徒指導)は、「『集団』から発想する成長援助」という意味合いが強いので、ときどき対立するものとして語られることがあります。しかし私は、対立よりむしろ協働できるものではないかという印象をもっています。集団を大事にできる「個」への成長援助も「個」を大事にできる集団育成もどちらも大事だからです。どちらも教育活動の大事な部分なのです。そういう協働のすごさや楽しさも多くの方と共有できたらと思いました。
 一方、「個」から発想するものの、教育相談は理論や技法の中には、集団を扱うものもまたたくさんあります。「個」か「集団」かではなく、「個」も「集団」も伸ばしていくヒントがたくさんあります。「個」と「集団」のジレンマに置かれることの多い学校という場に、だからとても役立ちます。そういう理論、技法、活用法をできるだけ具体的に書くことで、動き方と楽しみ方をもお伝えしたいと思いました。
 この本が、たくさんの方々との教育相談活動の醍醐味を交流するきっかけになればと願ってやみません。
 なお、本書に紹介されている事例は、プライバシー保護のため、特徴だけを際だたせて全く新しいものとして創造しております。そのままの事例が存在したわけではないことをご了解ください。

 2005年5月
                              和井田 節子

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