ブリーフセラピーを生かした学校カウンセリングの実際


 はじめに

 教師になってから十数年が過ぎました。当初は経験もありませんし、教育学や臨床心理学とは無縁の学生生活を送ってきましたから、生徒と対応する際の指針は何もなく、ただ勘だけを頼りに生徒と接する毎日でした。当然、力のなさを実感させられるような出来事もいくつもあり、『これではまずい。ちゃんと勉強しないと』という思いをもつようになっていきました。また、「体が大きいので」入ることになった生徒指導部で、なり手のいなかった教育相談係にたまたまなったのも新任一年目でした。

 このようなきっかけで私の教育相談の勉強は始まりました。いろいろなカウンセリング技法も勉強してきました。その勉強は子どもたちへの対応の仕方の幅を広げてくれましたし、多くのことを学びました。しかし、今ひとつ、しっくりこないところがありました。勉強をすればするほど、私の心の中には、『確かにプロのカウンセラーはすごい。学ぶべきこともたくさんある。でも、その技術を一般の教師がまねなどできるはずがない。それに、そもそも学校は治療機関ではなく教育機関だし、教師の仕事は子どもたちの成長を援助することであって、治療ではないはずだ‥‥』という思いが強くなっていったのです。また、「学校カウンセリング」と銘打った研修会に参加したり本を読んでいると、『いったいどこが学校カウンセリングなんだ。これじゃあ心理療法と違わないじゃないか』と思うようにもなっていきました。そしてその思いは、徐々に『学校という場、生徒の特質、教師の特質などを十分に考慮した、普通の教師カウンセラーにも十分使用可能な道具としての学校カウンセリングモデルが必要だ』という思いにまとまっていきました。

 今回、浅学にもかかわらず、また、カウンセリングのすぐれた本は数多くあるにもかかわらずこのような本を書いたのは、教師が教師のための具体的なカウンセリング技法を提示することも、こうした状況を改善することに多少なりとも役に立つかも知れないと考えたからです。特に第3章で示した面接の記録は、本来はとてもお見せできるような内容ではないのですが、『参考になるなら』という思いで恥を忍んで書いてみました。首を傾げたくなるところや、『そんなことはないだろう』と言いたくなるところも多々あるかと思いますが、ご容赦ください。

 ところで、学校カウンセリングモデルを提示するといっても、オリジナルなカウンセリング技法を開発する力など当然ありません。私が今まで勉強してきたいろいろなカウンセリング技法の中から、学校にフィットする特質をもったいくつかのモデルを取り出し、さらにそれらのモデルを「学校という場・生徒の特性・教師の特性にフィットする」というフィルターにかけて、そのフィルターを通った材料を自分なりに再構成して一つの形に仕上げたということです。
 具体的には、学校にフィットする多くの特徴をもつ解決志向アプローチ、認知行動カウンセリング、時間制限カウンセリングを中心に、交流分析などの視点も織り交ぜて統合モデルを作ってみました。技法面では主に解決志向アプローチの技法を、理論面では認知行動アプローチの理論を柱として、それらを時間制限カウンセリングの枠組の中で再構成しています。

 この本は、校内で教育相談係をされている先生や、カウンセリングの基礎的な傾聴訓練ぐらいは経験されている方々を念頭において書きましたが、はじめて学校カウンセリングに取り組まれる方が読まれても、多分、大丈夫ではないかと思います。なお、このモデルは「短期学校カウンセリング5段階モデル」と名付けましたが、実際には学校以外の場でも使用は可能であると思います。


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