「あのぅ、今いいですか?」 子どもの居場所づくりをめざした相談活動


 おわりに

 岐阜県の「教育相談研究協議会」は、平成十年に全県下の高校生三〇一五人を対象に、「生活実態・意識調査」を実施しました。それによると「我慢できないほどイライラすることがありますか」という問いに「よくある」「ときどきある」と答えている生徒は約五七%です。また、「家庭でどれぐらい勉強をしていますか」という問いに「ほとんどしない」と答えている生徒は約五〇%です。
 学校は「イライラする」生徒たちの心に、どう働きかければいいのかを、真剣に考えねばなりませんし、また「何をどう教えれば生徒が面白いと感じるか」も、もっと研究せねばならないと思います。
 私は、高校の相談室で、いろいろなケースの高校生たちを見て来ました。わざわざ相談に来ながら、世間話とも言えないような話を繰り返して、なかなか本題に入らない生徒の心の逡巡や、一方的に人の悪口ばかりを捲くし立てる生徒の、本心にある淋しさなどは、ゆっくり待って、一つひとつを大切に拾い上げていかねばならない事柄です。
 学校という所は、そういうことが一番大事なことなのに、生徒の心が熟すまで待っていられないほど先生方は忙しいのです。
 「学校中で一番大切なのは生徒です」と「相談室だより」にいつも書いていますが、本当に生徒は大切にされているのでしょうか。生徒が喜んで登校し、毎日を充実して生き生きと学生生活を送ることが一番大切なことだと思います。
 この本で紹介した生徒たちは、どの学校にもいる普通の生徒たちです。大人になるためには一人ひとりの生徒が、一人ひとりの課題を乗り越えて成長していかねばなりません。よそから見ていると危なっかしくて、不安なときもありますが、そういうとき、生徒のほうも苦しんで、自分の気持ちを持てあましている場合があります。
 先生方や保護者の方々には、そういう生徒たちの気持ちを真剣に聴いてほしいと思いますし、また自分の若かったころの未熟で恥ずかしかった思い出を忘れず、素直に語りかけてほしいと思います。そういう大人の心を生徒たちは、求めているのではないでしょうか。
 私の日ごろの相談活動の中から、考えていることを少し述べさせていただきました。もちろん私の一人よがりな考え方に反論される方もおありだと思います。反省すべき点もたくさんあります。しかし、ここまでを振り返ることができました。
 ほんの森出版の佐藤さんには、大変お世話になりました。ありがとうございました。また、「今までのことを書いてみたら」と勧めてくれた友人の市川さん、多賀さん、高屋さん、こうして本になりました。本当にありがとうございました。
 平成十二年 十二月    田中 京子

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